MTSとMTO

― 見込生産と受注生産をどう使い分けるか ―

製造業では、「在庫を持ってすぐに出荷する」のか、「注文を受けてから作る」のかという判断が、生産性や在庫、納期、キャッシュに大きく影響します。

一般的に、需要を予測してあらかじめ生産する方式をMTS(Make to Stock:見込生産)、受注後に生産する方式をMTO(Make to Order:受注生産)と呼びます。

どちらが優れているという話ではありません。

重要なのは、製品ごとの需要特性や納期条件に応じて、適切に使い分けることです。

MTSは「すぐに出荷できる」強さがある

MTSの最大の強みは、あらかじめ製品を作って在庫しておくことで、注文が入ったらすぐに出荷できることです。

需要が安定していて、短納期を求められる製品には非常に有効です。

例えば、毎月ある程度一定量が出荷される標準品であれば、過去実績や需要予測をもとに一定の在庫を持つことで、顧客要求にすぐ対応できます。

一方で、需要予測が外れた場合には在庫が増えます。売れない製品が倉庫に残れば、その分だけ資金が寝ることになりますし、仕様変更や需要減少が起これば、滞留在庫になるリスクもあります。

MTSは、納期対応力が高い代わりに、予測精度と在庫管理が非常に重要な方式です。

MTOは在庫を減らせるが、納期が課題になる

MTOでは、受注してから必要な材料や工程を動かすため、完成品在庫を少なくできます。

特注品や仕様のバリエーションが多い製品、需要が読みにくい製品には向いています。

無駄な完成品在庫を持ちにくいため、資金効率の面でも有利です。

しかし、問題は納期です。

受注してから材料を調達し、生産し、検査し、出荷するまでに時間がかかるため、顧客が求める納期に間に合わないことがあります。

特に、調達リードタイムが長い材料や、段取り時間の長い設備を使う製品では、完全なMTOは難しい場合があります。

つまりMTOでは、在庫を減らせる代わりに、生産リードタイムをどこまで短縮できるかが重要になります。

すべての製品を同じ方式で管理しない

実際の工場では、すべての製品をMTSかMTOのどちらか一つで管理する必要はありません。

需要が安定している売れ筋製品はMTSで在庫を持ち、特殊仕様品や需要変動の大きい製品はMTOで対応する、といった使い分けができます。

さらに、同じ製品の中でも工程ごとに分けることができます。

例えば、共通部品までは見込生産しておき、最終組立や仕様決定だけを受注後に行う方法です。

これなら、すべてを完成品として在庫する必要はありませんし、受注後の納期も短縮できます。

私は、こうしたMTSとMTOの中間を設計することが、実務では非常に重要だと考えています。

ポイントは「どこまで先に作るか」

MTSとMTOの使い分けを考える時には、「どこまで先に作っておくか」という視点が重要です。

材料だけ持つのか、共通部品まで作るのか、半製品まで作るのか、完成品まで作るのか。

この境界によって、納期と在庫のバランスが大きく変わります。

完成品まで作っておけば出荷は早くなりますが、在庫リスクは大きくなります。

一方で、材料だけを持って受注後にすべて生産すれば、在庫リスクは下がりますが、納期は長くなります。

つまり、生産方式の設計とは、

「在庫をどこに持つか」と「時間をどこで使うか」を決めること

でもあります。

需要特性によって分ける

製品ごとの需要特性を見ることも重要です。

毎月ほぼ一定量が売れる製品と、年に数回しか売れない製品を同じルールで管理すると、どちらかに無理が出ます。

安定して売れる製品は一定量を在庫してもリスクは比較的小さくなりますが、需要が読めない製品を同じように作れば、滞留在庫になる可能性が高まります。

そのため、出荷頻度や需要変動、利益率、製品寿命、調達リードタイムなどを見ながら、製品ごとに生産方式を変える必要があります。

生産方式は工場全体で一つではなく、製品ごとに設計するものだと思います。

「在庫ゼロ」ではなく「必要在庫」を考える

在庫削減は重要ですが、在庫を持たないこと自体を目的にすると、今度は欠品や納期遅延が増える可能性があります。

例えば、絶対に欠品させてはいけない製品であれば、一定の完成品在庫を持つことには意味があります。

逆に、ほとんど注文のない特殊品を大量に持つ必要はありません。

重要なのは、在庫を持つか持たないかではなく、なぜその在庫が必要なのかを説明できることです。

顧客要求を守るためなのか、調達リードタイムを吸収するためなのか、需要変動に対応するためなのか。

理由が明確であれば、その在庫は経営上必要な在庫です。

最適な生産方式は変化する

一度MTSやMTOを決めても、それが永遠に正しいとは限りません。

売れ筋だった製品が減少することもありますし、逆に少量だった製品が主力になることもあります。設備能力や調達条件、顧客要求納期も変わります。

そのため、生産方式も定期的に見直す必要があります。

以前はMTSだった製品をMTOへ変える。逆に、需要が安定してきた製品をMTSへ切り替える。

この見直しをせず、昔決めたルールをそのまま使い続けると、在庫過多や欠品につながります。

MTSとMTOの本質

MTSとMTOの違いは、単に「在庫を持つか持たないか」ではありません。

お客様が求める納期を守りながら、どこに在庫を持ち、どこから受注で動かすかを決める生産設計です。

私は、生産方式を考える時には、

納期、在庫、キャッシュ、生産能力を一体で見ること

が重要だと思っています。

在庫を減らしすぎて欠品を起こしてもいけませんし、納期を守るために必要以上の在庫を抱えてもいけません。

MTSとMTOをうまく使い分けることは、単なる生産管理ではなく、会社全体の資金効率と顧客満足を両立させる経営判断なのではないでしょうか。