Bird in Hand
― 自社がすでに持っている経営資源を棚卸しする ―
新しい事業や製品開発を考えるとき、私たちはつい「何が足りないか」から考えてしまいます。
技術者がいない。予算がない。新しい設備がない。販売ルートがない。だから、今はできない。
しかし、Effectuationには**Bird in Hand(手中の鳥)**という考え方があります。
未来のために必要なものをすべて揃えてから始めるのではなく、まず**「今、自分たちは何を持っているのか」**から考えるという発想です。
これは、新しい事業だけではなく、製造業の改善や技術革新を考える上でも非常に有効だと思っています。
自社にあるものを、本当に知っているか
経営資源というと、人・モノ・金を思い浮かべます。
しかし、会社が持っているものはそれだけではありません。
長年蓄積してきた加工技術、設備を使いこなすノウハウ、品質管理の経験、顧客との関係、仕入先や協力会社とのつながり。そして、社員一人ひとりが持っている経験や知識も重要な経営資源です。
ところが、これらは日常の仕事の中に溶け込んでいるため、自分たちでは価値に気づきにくいものです。
「この加工なら昔からやっています。」
「この程度なら誰でもできます。」
自社では当たり前だと思っていることが、他社から見ると簡単には真似できない技術であることもあります。
だからこそ、時には自社を外から見るように、**「私たちは何ができる会社なのか」**を棚卸しすることが必要です。
製品ではなく「できること」で考える
例えば、自社を「○○部品を作っている会社」と考えると、発想は現在の製品の範囲に限定されます。
しかし、「薄い材料を高精度に加工できる」「少量多品種を短期間で切り替えられる」「特殊な材料を安定して接合できる」というように、自社の能力として捉え直すと可能性が広がります。
同じ技術でも、使う市場が変われば価値が変わります。
現在は自動車部品に使っている加工技術が、医療、食品、半導体、環境分野など、別の市場で価値を持つかもしれません。
重要なのは、「今、何を作っているか」だけではなく、その製品を作る過程で、自分たちは何ができるようになったのかを見ることです。
そこに、新しい製品や事業の種が隠れていることがあります。
設備の棚卸しも「機械名」で終わらせない
設備についても同じです。
「旋盤が3台ある」「充填機が2台ある」という設備一覧だけでは、経営資源の棚卸しとしては十分ではありません。
その設備で、どんな材料を加工できるのか。どの程度の精度を出せるのか。どこまで条件を変えられるのか。治具を変更すれば別の用途に使えないのか。
長年設備を使っている現場には、メーカーの仕様書には書かれていないノウハウが蓄積されています。
つまり、経営資源は設備そのものではなく、設備と、それを使いこなしている人の知識との組み合わせにあります。
新しい設備を買う前に、今ある設備の可能性をもう一度見直してみる。
それだけでも、新しい選択肢が見つかることがあります。
人の棚卸しは「職種」だけでは見えない
人についても、「製造5人、品質2人、営業3人」という人数だけでは、その会社が持っている力は分かりません。
製造担当者の中に、以前は営業をしていた人がいるかもしれません。趣味でプログラミングをしている人や、設備の改造が得意な人もいるかもしれません。若い社員が、自分たちには思いつかないITの使い方を知っていることもあります。
会社が社員を「現在担当している仕事」だけで見てしまうと、こうした能力は使われないままになります。
「あなたは何ができますか」だけではなく、「これまで何を経験してきましたか」「何が得意ですか」「何をやってみたいですか」と聞いてみる。
そうすると、組織の中に眠っていた資源が見えてきます。
人材不足の時代だからこそ、人数だけではなく、今いる人の中にどんな可能性があるのかを見ることが重要だと思います。
「誰を知っているか」も経営資源になる
Bird in Handでは、自分が持っている知識や能力だけでなく、人とのつながりも重要な資源として考えます。
自社だけではできないことでも、取引先、仕入先、地域企業、大学、専門家などと組むことで実現できることがあります。
「自社にはその技術がない」で終わるのではなく、
「その技術を持っている人を知っていないか」
と考える。
これだけで、選択肢は大きく広がります。
これからの中小製造業では、すべてを自社だけで持つことよりも、必要に応じて他者の能力と組み合わせる力がますます重要になると思います。
棚卸しは「強み探し」だけではない
経営資源の棚卸しというと、自社の強みを探す活動だと思われがちです。
しかし、それだけではありません。
自分たちが何を持っているのかを明確にすることで、反対に「何を持っていないのか」も見えてきます。
そして、足りないものをすべて自社で揃えるのではなく、外部と組むのか、学ぶのか、投資するのかを判断できるようになります。
つまり棚卸しとは、自社を過大評価するためのものでも、弱みを嘆くためのものでもありません。
今ある経営資源を正しく知り、次に何ができるかを考えるための出発点なのです。
“ないもの”を探す前に、“あるもの”を使い切る
新しいことを始めようとすると、「何を準備すればいいか」と考えます。
しかし、その前に一度、
「私たちは今、何を持っているのか。」
と問い直してみる。
人、設備、技術、経験、知識、そして人とのつながり。
それらを一つずつ棚卸しし、組み合わせを変えてみると、これまで見えなかった可能性が生まれることがあります。
Bird in Handとは、「今あるもので我慢する」という考え方ではありません。
今あるものを起点にして、できることを少しずつ広げていく考え方です。
新しい経営資源を手に入れることも大切です。しかし、その前に、すでに持っている資源を十分に使い切れているでしょうか。
そこを見直すことが、改善、製品開発、そして技術革新の第一歩になるのではないでしょうか。



