停止時間より怖い「チョコ停」
― 数分の小さな停止が、工場の生産能力を奪っていく ―
設備が1時間止まれば、誰もが問題だと認識します。
保全担当者が呼ばれ、原因を調べ、復旧までの時間が記録されます。場合によっては、再発防止まで検討されるでしょう。
一方で、30秒、1分、3分といった短い停止はどうでしょうか。
ワークが少しずれた。センサーが反応しなかった。材料が引っ掛かった。作業者が設備をリセットしたら、すぐに動いた。
こうした短時間の停止を一般に「チョコ停」と呼びます。
一回一回は小さな停止なので、大きな問題には見えません。しかし私は、こうした小さな停止こそ、工場の中に隠れている大きな能力損失になることがあると考えています。
大きな故障は見える。しかし、チョコ停は見えにくい
設備が2時間停止すれば、その日は大きなトラブルとして扱われます。
ところが、2分の停止が一日に何十回も発生していても、現場では「いつものこと」として処理されてしまうことがあります。
作業者が設備に近づき、材料を直して、リセットボタンを押す。数分後には生産を再開できるため、わざわざ停止記録を残さないこともあります。
しかし、仮に3分の停止が1日に20回起きれば、それだけで1時間です。
さらに問題なのは、停止している時間だけではありません。
異常に気づくまでの時間、設備まで移動する時間、復旧後に生産条件を確認する時間なども含めれば、実際の損失はさらに大きくなります。
一回の大きさではなく、発生頻度との掛け算で見ること。
これがチョコ停を考える時には重要です。
「すぐ直せる」が問題を見えなくする
チョコ停が放置される理由の一つは、現場の作業者が上手に対応できてしまうことです。
「ここが詰まったら、少し押せば直る。」
「このセンサーが止まったら、一度リセットすれば動く。」
長く設備を扱っている人ほど、こうした復旧方法をよく知っています。
これは現場力でもあります。
しかし、別の見方をすると、問題そのものが改善されないまま、作業者の経験によって吸収され続けている状態とも言えます。
私は、ここにチョコ停の怖さがあると思っています。
毎日同じ異常が起きているのに、数分で復旧できるため「故障」として扱われない。その結果、数か月、場合によっては何年も同じロスが繰り返されます。
設備が「止まること」が当たり前になってしまうと、そもそも問題として認識されなくなります。
チョコ停は「性能」の問題でもある
前回のOEEでも触れましたが、設備の能力を見る時には、単に何時間動いたかだけでは不十分です。
大きな設備故障は時間稼働率の低下として比較的見えやすいのですが、短いチョコ停や速度低下は、その設備が本来持っている能力を少しずつ奪います。
設備は動いているように見える。しかし、計画していた数量がなかなか出てこない。
「今日は設備もほとんど止まっていないのに、なぜ生産数が少ないのだろう。」
こうした時には、小さな停止や速度低下が隠れていないかを見る必要があります。
設備能力という大きなタンクに、小さな穴がたくさん開いているようなものです。
一つひとつの穴は小さくても、そのままにしておけば、想像以上の能力が失われていきます。
まず「何回起きているか」を知る
チョコ停を改善しようとしても、最初からすべての原因を調査する必要はありません。
まず重要なのは、実態を知ることです。
どの設備で、どんな停止が、何回起きているのか。そして、どの停止によって最も多く時間を失っているのか。
ここが見えてくると、改善すべき優先順位も変わってきます。
例えば、10分の停止が1日に1回発生する問題より、1分の停止が1日に30回発生する問題の方が、年間では大きな損失になっているかもしれません。
すべてのチョコ停を同時に改善しようとすると、活動が複雑になります。
だから私は、頻度と損失時間の大きいものから一つずつ潰していくことが現実的だと思っています。
記録も最初から複雑にする必要はありません。
作業者が負担なく記録できる程度から始め、問題の大きさを見えるようにする。見えるようになれば、改善の議論ができるようになります。
「作業者の注意」で終わらせない
チョコ停が発生すると、「材料の入れ方に注意してください」「センサーの位置を確認してください」という対策になることがあります。
もちろん、作業方法に原因がある場合もあります。
しかし、同じ問題が繰り返されているのであれば、「もっと注意する」だけでは再発防止になりません。
なぜ材料がずれるのか。なぜセンサーが誤検知するのか。なぜ詰まりやすい形状になっているのか。なぜ毎回作業者が手を入れなければならないのか。
設備、治具、材料条件、作業方法、保全状態などを含めて考える必要があります。
現場で当たり前になっている「ちょっとした手直し」の中には、設備改善のヒントが数多く隠れています。
チョコ停をなくすことは、単に設備停止時間を減らすことではありません。
人が設備の面倒を見続けなければならない状態から、人を解放することでもあります。
チョコ停を減らすと、設備だけでなく人の時間も戻ってくる
チョコ停が多い設備では、作業者が設備から離れられません。
いつ止まるか分からないので常に近くにいる必要があり、停止するたびに復旧作業を行います。
その設備が安定して動くようになれば、作業者は別の工程を担当したり、複数設備を受け持ったりできるようになるかもしれません。
つまり、チョコ停改善によって得られるものは、設備能力だけではありません。
作業者の時間も生まれます。
人手不足の製造現場では、この意味は非常に大きいと思います。
設備を安定させることは、省人化や多能工化を進めるための前提にもなります。
小さな異常を「当たり前」にしない
大きな故障は誰でも気づきます。
しかし、本当に改善力が問われるのは、毎日起きている小さな異常に気づけるかどうかではないでしょうか。
「昔から止まる。」
「この設備はこういうもの。」
「すぐ直るから問題ない。」
こうした言葉が現場で聞かれた時こそ、改善のチャンスがあります。
チョコ停は、一回だけを見れば小さな問題です。
しかし、それを毎日繰り返せば、生産能力、人の時間、納期、そして利益まで少しずつ失っていきます。
だから私は、大きな設備故障だけではなく、現場が慣れてしまった小さな停止に目を向けることが重要だと考えています。
設備が止まった時間を見るだけではなく、
「何度、人が設備を助けに行っているのか。」
そこまで見ると、今まで見えていなかった損失が見えてくるかもしれません。



