稼働率100%を目指してはいけない理由

― 設備を止めないことが、必ずしも経営にとって正しいとは限らない ―

製造現場では、「設備をできるだけ止めないようにしよう」と考えます。

高価な設備を導入している以上、できるだけ稼働させたい。設備が止まっていると、もったいないと感じる。だから、稼働率100%を目指したくなる。

その気持ちはよく分かります。

しかし私は、稼働率を高めることそのものを目的にしてはいけないと考えています。

設備が100%動いていても、必要以上の製品を作って在庫を増やしているのであれば、それは会社全体にとって本当に良い状態なのでしょうか。

「設備が止まっている=損失」とは限らない

例えば、ある設備に1日8時間の生産能力があるとします。しかし、実際の需要を満たすために必要なのは6時間だけだったとします。

残り2時間も設備を動かして製品を作れば、設備稼働率は上がります。

しかし、その製品がすぐには売れないのであれば、完成品在庫として倉庫に積み上がっていきます。

見た目には、設備も人も効率よく働いています。しかし会社全体で見れば、材料を使い、人件費やエネルギーを使い、売れるかどうか分からない在庫を増やしているだけかもしれません。

この場合、設備が2時間止まっていることよりも、不要なものを2時間作り続けることの方が大きな損失になる可能性があります。

稼働率を追うと、作り過ぎが起こる

設備稼働率をKPIとして強く管理すると、現場では「とにかく設備を止めない」という行動が起こりやすくなります。

注文が少なくても先の分まで作る。段取り替えを避けるために、一度に大量生産する。次工程が処理できなくても前工程だけは動かす。

その結果、仕掛品や完成品が増えていきます。

製造現場からすると、「たくさん作った」「設備を止めなかった」という成果になります。

しかし、経営の視点では話が違います。

在庫には材料費、人件費、エネルギー費など、すでに多くのお金が投入されています。しかも、そのお金は製品が売れて入金されるまでキャッシュとして戻ってきません。

つまり、稼働率を上げるための生産が、逆にキャッシュフローを悪化させることがあります。

設備効率の最適化と、会社全体の最適化は同じではありません。

ボトルネック設備と非ボトルネック設備は同じではない

もう一つ大切なのは、すべての設備を同じように高稼働させる必要はないということです。

工程全体の生産能力を決めているボトルネック設備は、できるだけ停止させないことが重要です。その設備が止まれば、工場全体の生産量が下がるからです。

一方で、ボトルネックではない設備まで100%稼働させると、次工程の前に仕掛品が積み上がります。

つまり、大切なのは一台一台の設備稼働率ではなく、工場全体として製品がどれだけスムーズに流れているかです。

ある設備が止まっていても、必要な生産量を確保でき、工程全体が安定して流れているのであれば、それは必ずしも悪い状態ではありません。

稼働率より「必要能力」を考える

設備管理で重要なのは、「100%動かすこと」ではなく、「必要な時に必要な能力を発揮できること」です。

例えば、需要に対して設備能力に十分な余裕があれば、急な注文や設備トラブルにも対応できます。

逆に、常に100%近い稼働を前提とした工場では、設備故障や欠勤、注文変動などが起きた瞬間に納期遅延へつながる可能性があります。

一定の余力を持つことは、単なるムダではありません。

その余力が変化への対応力になります。

経営では、設備能力をすべて使い切ることよりも、需要変動に対応できる柔軟性を持つことの方が重要な場合があります。

「止める勇気」も必要

設備を止めると、現場では不安を感じることがあります。

「設備が遊んでいる。」

「人が余っている。」

「もっと作れるのにもったいない。」

しかし、その時間を別の価値に変えることもできます。

設備が止まっている時間に、清掃や点検を行う。予防保全を進める。段取り改善をする。作業者教育や多能工化を進める。改善活動に時間を使う。

ただ製品を作り続けるよりも、その時間を将来の生産性向上へ使った方が、会社全体として大きな価値を生むこともあります。

だから私は、設備を止めることを単純に「損失」と考えるのではなく、その時間を何に使うかまで考えることが重要だと思っています。

見るべきなのは稼働率ではなく「流れ」

製造業の目的は、設備を動かすことではありません。

お客様が必要とする製品を、必要な時に、必要な量だけ、適正なコストと品質で届けることです。

そのために設備があります。

稼働率100%を達成しても、在庫が増え、キャッシュが減り、納期が長くなっているのであれば、本来の目的から外れています。

だから経営者や工場長が見るべきなのは、単なる設備稼働率だけではありません。

受注から材料、生産、出荷、そして入金までがどれだけスムーズにつながっているのか。

設備を止めないことより、会社全体の流れを止めないこと。

この視点が重要です。

稼働率100%を目指すのではなく、必要な時に必要な能力を使える工場をつくる。

私は、それが本当の意味で強い工場だと考えています。