中期経営計画の3つの鉄則

― 「目標・資源・実行」を一本の線でつなぐ ―

中期経営計画を作っている会社は多いと思います。

3年後の売上、営業利益、新規事業、設備投資、人員計画。経営者や幹部が時間をかけて議論し、立派な資料にまとめる。

しかし、1年後にその計画を見返してみると、当初の計画と現実が大きく違っていることがあります。さらに現場では、「中期経営計画の内容をよく知らない」ということさえあります。

私は、中期経営計画で大切なのは、精緻な数字を作ること以上に、「目標」「資源」「実行」の三つを一本の線でつなぐことだと考えています。

計画を作ることが目的ではありません。計画した未来へ向けて、今日の行動を変えることが目的なのです。

1.目標――「何を目指すのか」を明確にする

中期経営計画では、最初に将来像を明確にする必要があります。

「3年後に売上20億円にする」「営業利益率を8%にする」といった数値目標はもちろん必要です。しかし、数字だけでは十分ではありません。

なぜ、その売上を目指すのでしょうか。

何を強みにして成長するのでしょうか。

どんなお客様に、どんな価値を提供する会社になりたいのでしょうか。

そして、その時に社員はどのように働き、どのような組織になっているのでしょうか。

例えば、売上を増やすだけなら、大量の受注を取り、外注や残業を増やすことで一時的に達成できるかもしれません。しかし、それによって利益率が下がり、人が疲弊し、品質問題が増えれば、本当に目指していた姿とは違うはずです。

中期経営計画では、「いくら売るか」だけではなく、どのような会社になりたいのかまで言葉にすることが重要です。

目標とは数字だけではありません。

数字の向こう側にある「目指す姿」が明確になって初めて、社員も自分たちがどこへ向かっているのかを理解できます。

2.資源――目標に対して何が足りないのか

目標を決めたら、次に考えるのは経営資源です。

売上を30%増やすという目標を立てても、現在の設備能力が限界であれば、そのままでは達成できません。新しい製品を開発すると決めても、技術者も時間も確保していなければ実行できません。

私はここが、中期経営計画で抜けやすい部分だと思っています。

目標は大きく掲げる。しかし、人も設備も予算も現在のまま。これでは、計画ではなく希望になってしまいます。

経営資源というと、一般的には人・モノ・金と言われますが、製造業ではさらに時間、技術、設備能力、情報、取引先との関係なども重要です。

例えば3年後に生産量を30%増やしたいのであれば、まず現在の設備に30%の余力があるのかを確認する必要があります。

もし能力が足りないのであれば、すぐに新設備を購入するのではなく、段取り短縮、OEE改善、レイアウト変更、多能工化などによって、今ある資源から能力を引き出せないかを考える。

それでも不足するのであれば、初めて設備投資や採用を検討する。

つまり、中期経営計画とは、未来の数字を決めるだけではなく、現在と未来のギャップを明らかにし、その差をどう埋めるかを考えることなのです。

3.実行――3年後の計画を「今日の仕事」に変える

そして、最も重要なのが実行です。

中期経営計画が実現しない大きな理由の一つは、3年後の目標と今日の仕事がつながっていないことだと思います。

例えば、「3年後に営業利益率を5%から8%へ改善する」という目標があったとします。

では、今年は何%まで改善するのでしょうか。そのために製造部門は何をするのでしょうか。不良率、段取り時間、材料歩留まり、設備停止、残業、外注費をどこまで改善するのでしょうか。

さらに、それを今月は何をするのか、今週は何をするのかというところまで落とし込む必要があります。

中期計画から年度計画へ、年度計画から月次計画へ、そして日々の活動へつなげていく。

ここまでつながって初めて、中期経営計画が現場で動き始めます。

前回の#3でも触れましたが、経営の言葉を現場の行動へ「翻訳すること」が非常に重要です。

3年後の利益目標だけを現場へ伝えても、社員は何をすればよいのか分かりません。しかし、「今年は不良を1%減らす」「段取り時間を20%短縮する」「仕掛在庫を15%減らす」という具体的な活動まで落とし込めば、日々の仕事につながります。

計画は変えてはいけないものではない

もう一つ、中期経営計画について誤解されやすいことがあります。

それは、一度作った計画を守り続けなければならないという考えです。

3年間、外部環境がまったく変わらないことはありません。

原材料価格が変わる。為替が変わる。人が辞める。新しい技術が登場する。主要顧客の需要が変化する。想定していなかった新しいビジネスチャンスが生まれることもあります。

こうした変化があるにもかかわらず、「計画で決めたから」という理由だけで同じことを続ける必要はありません。

重要なのは、目指す方向を簡単に変えることではなく、状況の変化に合わせて、そこへ到達する方法を柔軟に変えることです。

計画と実績の差を見る。そして、「なぜ差が生まれたのか」を確認し、必要であれば資源配分や行動を変える。

中期経営計画は、未来を正確に予測するためのものではなく、変化が起きた時に「どこへ向かうのか」を見失わないためのものでもあります。

「やらないこと」を決めるのも経営計画

経営資源には限りがあります。

人も、お金も、設備も、時間も無限ではありません。

そのため、新しいことを一つ始めれば、どこかで何かを減らす必要があります。

新製品開発に力を入れるのであれば、その時間をどう確保するのか。人材育成を強化するのであれば、管理者の時間をどこから生み出すのか。新設備へ投資するのであれば、ほかの投資案件との優先順位をどうするのか。

中期経営計画というと、「何をするか」をたくさん書きたくなります。

しかし私は、何をするかと同じくらい、何をやらないかを決めることが重要だと思っています。

すべてを同時に実行しようとすると、結局どれも中途半端になります。

限られた資源を、本当に重要なテーマへ集中する。それも経営者の重要な仕事です。

中期経営計画は、未来と現在をつなぐもの

中期経営計画は、3年後や5年後の予想数字を作る資料ではありません。

自分たちはどこへ向かうのか。そのために何が必要なのか。そして、今日から何を変えるのか。

この三つをつなぐものだと思います。

目標があっても、資源がなければ実現できない。

資源があっても、実行されなければ成果は出ない。

そして、実行していても、目標と違う方向へ進んでいれば意味がありません。

だからこそ、

目標・資源・実行。

この三つを常につなげて考えることが、中期経営計画の基本だと私は考えています。

立派な計画書を作ることよりも、経営者が描いた未来が、一人ひとりの「今日の仕事」につながっているか。

そして、毎日の小さな行動が、少しずつその未来へ近づいているか。

そこまでつながって初めて、中期経営計画は「資料」から「経営」に変わるのではないでしょうか。