【概念思考|値決め】

「値決め」とは、品物やサービスの価格を定めることを意味します。

しかし、単なる事務的な「値付け」とは少し違います。

どの価格であれば顧客に価値を感じてもらい、同時に企業として必要な利益を確保できるのか。その一点を見極める、経営における重要な意思決定です。

京セラ創業者の稲盛和夫氏が「値決めは経営である」と説いたことでも知られています。

「値」という字は、「人」を表すにんべんと「直」から成り立っています。「直」には、「まっすぐ」「正しい」という意味のほか、一定の基準に合わせるという意味があります。

そう考えると「値」には、物そのものだけではなく、人がその価値を見極め、一定の基準を与えるという意味も感じられます。

私は「値決め」を概念化すると、

「総合判断」
「経験」
「経営センス」

の三つで捉えています。

私は、値決めは単なる営業の仕事ではなく、最終的には経営者が責任を持って決めるべき仕事だと考えています。

会社によっては、

「原価に20%を乗せる」
「競合他社と同じくらいにする」
「高いと言われたから値引きする」

といった形で価格が決まっていることがあります。

もちろん、それらも一つの参考情報ではあります。

しかし、それだけで決めてしまうのであれば、そこには経営としての意思がありません。

価格は、その製品やサービスが将来生み出す売上や利益を大きく左右します。

どれほど良い商品を開発しても、どれほど生産性を高めても、最後の価格設定を間違えれば、十分な利益を残すことができません。

反対に、価格を高く設定すれば良いというほど単純でもありません。

企業にとっては、当然できるだけ高く販売したい。

しかし、顧客にも、

「この価格でも買って良かった」

と思ってもらわなければ、長い取引にはつながりません。

ここに「総合判断」が必要になります。

原価はいくらなのか。
材料費はどれほどかかっているのか。
製造にはどれだけの人や設備が必要なのか。
開発にはどれだけの時間と費用を使ったのか。
競合商品はいくらなのか。
顧客はその製品によってどれだけの価値を得られるのか。

さらに、販売数量や市場規模、今後の成長性まで考える必要があります。

こうしたさまざまな要素を総合して、

「この価格が最も良い」

という一点を決める。

これが値決めだと思います。

そして、値決めには「経験」も必要です。

数字だけでは判断できないことがあります。

過去にどの価格で売れたのか。
顧客はどこで高いと感じるのか。
値引きをした結果、どのような取引になったのか。
価格を上げたとき、顧客はどのように反応したのか。

こうした経験の蓄積によって、数字だけでは見えない価格への感覚が磨かれていきます。

また、私は値決めには、従業員への視点も必要だと思っています。

その製品を開発した人がいる。
製造した人がいる。
品質を守った人がいる。
販売や物流を支えた人がいる。

価格には、その人たちの努力に報いるという意味もあります。

安易な値引きは、一見すると顧客のためのように見えますが、場合によっては、自社の社員が生み出した価値を自ら低く評価することにもなります。

だからこそ、値決めでは、自社だけ、顧客だけという一方向から考えるのではなく、

会社が成長できる。
従業員の努力に報いることができる。
顧客にも十分な価値を提供できる。
そして、取引を通して社会や経済にも良い循環が生まれる。

その一点を探す必要があります。

当然、採算を割り込むような価格を安易につけるべきではありません。

売上が増えても、利益が残らなければ、企業は継続できません。

企業が継続できなければ、顧客への価値提供も、従業員の雇用も続けることができなくなります。

だからこそ、利益を確保することは、決して悪いことではありません。

むしろ、企業が継続して価値を生み出していくために必要な条件です。

そして最後に価格を決めるときには、「経営センス」が問われます。

数字を理解する。
市場を見る。
顧客を理解する。
社員の努力を考える。
将来を予測する。
そして、最後は自分の責任で決断する。

どこか一つだけを見ていては、正しい値決めはできません。

すべてを総合し、その中から一点を選ぶ。

私は、この決断を正しく行える能力こそ、経営力そのものだと思っています。

「総合判断」をする。
「経験」を積み重ねる。
そして最後は「経営センス」で決める。

値決めとは、単に数字を付ける作業ではありません。

その製品の価値、会社の未来、顧客への貢献、そして働く人たちの努力を一つの数字に集約する、経営における最後で最高の意思決定なのではないでしょうか。