誠意

― 相手の期待に応えることが、誠意なのか ―

「誠意を持って対応します。」

仕事でも日常生活でも、よく使われる言葉です。

しかし、誠意とは何でしょうか。相手の希望をすべて受け入れることでしょうか。できるだけ相手を喜ばせることでしょうか。それとも、謝罪を繰り返し、相手が納得するまで対応することでしょうか。

私は、誠意とは単に相手の期待に応えることではないと思っています。

相手にとって耳の痛いことであっても、必要なことを正直に伝える。できないことは、できないと伝える。そして、一度約束したことについては最後まで向き合う。

誠意とは、相手に合わせることではなく、相手を大切に思うからこそ、正直に向き合う姿勢なのではないでしょうか。

誠意と「相手の言う通りにすること」は違う

お客様から無理な納期を求められたとします。

「何とかします」と答えれば、その場では喜んでもらえるかもしれません。しかし、実際には現在の設備や人員では対応できず、結果として品質問題や納期遅延を起こしてしまったら、それは本当に誠意ある対応でしょうか。

私は、違うと思います。

無理なものは無理だと正直に伝え、その上で「ここまでならできます」「この方法なら対応できます」と代替案を考える。

その場で相手の期待に応えられなくても、長い目で見れば、その方が相手に対して誠実な対応になることがあります。

誠意とは、相手を一時的に満足させることではありません。

相手との関係を大切にするからこそ、できることと、できないことを正直に伝えることだと思います。

耳の痛いことを伝えるのも誠意

部下が問題のある仕事の進め方をしていた時、関係を悪くしたくないから何も言わない。それは優しさに見えるかもしれません。

しかし、そのままでは本人が同じ失敗を繰り返し、いずれもっと大きな問題になる可能性があります。

本当に相手の成長を考えるのであれば、時には耳の痛いことを伝えなければなりません。

ただし、何を言ってもよいということではありません。

相手を傷つけるために言うのか、相手が良くなることを願って言うのか。同じ言葉でも、そこにある気持ちは大きく違います。

注意や指摘をする時ほど、

「この人にどうなってほしいのか」

を自分自身に問い直す必要があります。

誠意には、優しさだけでなく、時には厳しさも必要なのだと思います。

約束を守ることの重さ

私は、誠意を考える上で「約束」はとても重要だと思っています。

大きな約束だけではありません。

「明日連絡します。」

「来週までに確認します。」

「後で回答します。」

仕事では、このような小さな約束を毎日のようにしています。

一つひとつは小さなことですが、それが守られることで信頼が積み重なっていきます。

反対に、小さな約束を繰り返し破っていると、どれだけ「誠意を持って対応します」と言っても、その言葉は次第に信用されなくなります。

誠意は、大きな言葉で表すものではありません。

むしろ、誰も見ていないような小さな約束を守り続けることの中に表れるのではないでしょうか。

「できません」と言う勇気

仕事をしていると、相手から期待されるほど、「できません」と言いにくくなります。

せっかく相談してくれたのだから応えたい。お客様を失いたくない。期待を裏切りたくない。

その気持ちはよく分かります。

しかし、自分の能力や会社の能力を超えたことを引き受け、結果として相手に迷惑をかけるのであれば、それは誠意とは言えないと思います。

できないことを正直に伝える。

その上で、自分にできることを考える。場合によっては、自分ではできなくても、できる人を紹介する。

私は、そこにも誠意があると思っています。

自分の利益を優先するのではなく、相手にとって何が良いのかを考える。その結果、自分の仕事にならないこともあるかもしれません。

それでも相手にとって良い選択をする。

誠意とは、そういう姿勢なのではないでしょうか。

誠意は「言葉」より「行動」に表れる

「誠心誠意対応します」と言うことは簡単です。

しかし、本当に誠意があるかどうかは、その後の行動によって判断されます。

問題が起きた時にすぐ連絡するのか。都合の悪い情報も隠さず伝えるのか。約束した期日を守るのか。守れなくなった時に、相手から催促される前に説明するのか。

こうした行動の積み重ねが、信頼をつくっていきます。

反対に、言葉では丁寧でも、都合が悪くなると連絡がなくなる。問題を隠す。責任を他人へ移す。

それでは、どれだけきれいな言葉を使っても誠意は伝わりません。

私は、誠意とは相手に見せるものではなく、結果として相手に伝わるものだと思っています。

誠意と自己犠牲は違う

一方で、誠意を持つことと、自分を犠牲にすることも違います。

相手の要求をすべて受け入れ、自分や社員が無理をし続けることが誠意ではありません。

お客様から無理な要求を受けた時、それを守るために社員が毎晩遅くまで残業する。その状態を続ければ、いずれ品質や安全にも影響が出ます。

お客様を大切にすることと同じように、社員を大切にすることも経営者の責任です。

だから誠意には、境界線も必要だと思います。

何でも引き受けるのではなく、自分たちが責任を持ってできる範囲を明確にする。そして、できない場合には理由を説明し、できる方法を一緒に考える。

相手を大切にしながら、自分自身や自分の組織も大切にする。

そのバランスも誠意の一部ではないでしょうか。

誠意とは、相手と正面から向き合うこと

誠意とは、相手に気に入られることではないと思います。

時には、相手の期待に応えられないこともあります。意見が違うこともあります。厳しいことを伝えなければならないこともあります。

それでも逃げずに、相手と正面から向き合う。

できることは精一杯行い、できないことは正直に伝える。失敗した時には言い訳をせず、必要な対応をする。そして、小さな約束を一つずつ守っていく。

私は、そこに誠意が表れるのだと思います。

誠意とは、相手の望むことをすべて行うことではありません。

相手を大切に思うからこそ、時には「できない」と言い、時には耳の痛いことも伝える。

そして、自分が引き受けたことからは逃げない。

誠意とは、言葉ではなく、そうした日々の行動の中に表れるものではないでしょうか。