「壊れてから直す工場」から抜け出す方法

― 故障対応から、故障を予防する設備管理へ ―

設備が止まると、保全担当者や現場のベテランが集まり、原因を探し、何とか復旧させる。生産が再開すると、「直ってよかった」と安心する。

製造現場では、よく見かける光景です。

もちろん、故障した設備を早く復旧させる力は必要です。しかし、この状態を繰り返していると、設備管理はいつまでも「壊れたら直す」という仕事から抜け出せません。

前回、清掃は設備点検でもあると書きました。清掃や日常点検によって小さな異常に気づくことができれば、故障する前に手を打てる可能性が高くなります。

私は、設備保全で本当に目指すべきなのは、修理が上手な工場ではなく、「そもそも修理が必要になる回数が少ない工場」だと考えています。

故障した設備を直すだけでは、問題は終わっていない

例えば、設備のベアリングが破損して停止したとします。

ベアリングを交換し、設備が動くようになれば、とりあえず生産は再開できます。しかし、「なぜベアリングが壊れたのか」を考えなければ、同じ故障を繰り返す可能性があります。

潤滑不足だったのか、芯ずれがあったのか、異物が入り込んだのか、それとも交換周期そのものに問題があったのか。原因によって対策は変わります。

故障した部品を交換することは復旧であって、再発防止とは限りません。

私は、設備が再び動き始めた時こそ、「今回の故障から何を学ぶのか」を考える必要があると思っています。

故障を一件のトラブルとして終わらせるのではなく、次の故障を防ぐための情報として残す。その積み重ねが予防保全につながっていきます。

故障履歴は、設備からのメッセージである

「この設備は昔からよく止まる。」

現場では、このような話を聞くことがあります。しかし、それだけでは改善につながりません。

いつ止まったのか、どの部分が壊れたのか、停止時間はどれくらいだったのか、どのような処置をしたのか。こうした情報を残していくと、その設備の特徴が見えてきます。

同じ部品が半年ごとに壊れているのであれば、偶然とは考えにくくなります。ある季節だけ故障が増えるのであれば、温度や湿度など別の要因が関係しているかもしれません。

故障履歴を取る目的は、報告書を増やすことではありません。

過去の故障を並べることで、設備がどのような状態になると故障しやすいのかを知り、次の保全につなげることに意味があります。

記録されていない故障は、時間が経つと「何となく前にもあった」という記憶だけになってしまいます。経験を個人の記憶から会社の知識へ変えることも、設備管理の重要な仕事だと思います。

すべての設備を同じように管理する必要はない

予防保全を進めようとすると、すべての設備に同じ点検や交換周期を設定してしまうことがあります。

しかし、設備によって重要度は違います。

一台しかなく、止まれば工場全体が止まる設備もあれば、別の設備で代替できるものもあります。故障しても短時間で直せる設備もあれば、部品の入手に数週間かかる設備もあります。

そのため、私は設備保全にも優先順位が必要だと思っています。

故障した時にどれだけ生産へ影響するのか、品質や安全にどのような影響があるのか、代替手段はあるのか、修理にはどの程度の時間と費用が必要なのかを考えます。

重要な設備ほど点検頻度を高め、予備品を確保し、交換周期も管理する。一方で、影響の小さい設備まで同じ水準で管理すれば、保全活動そのものが過剰になってしまいます。

何でも点検するのではなく、「止めてはいけない設備は何か」を明確にすることが、効率的な設備管理につながります。

「時間基準」だけでなく「状態」を見る

予防保全では、「半年ごとに交換する」「1年ごとに点検する」といった周期管理がよく使われます。

これは重要な方法ですが、設備の使われ方は必ずしも同じではありません。

一日20時間動いている設備と、一日2時間しか使わない設備では、同じ一年でも負荷が違います。また、生産条件によって設備への負担が変わることもあります。

だから、決められた期間だけを見るのではなく、設備そのものの状態を見ることも必要です。

音が変わっていないか、振動が増えていないか、温度が高くなっていないか、油の状態に変化がないか。こうした小さな変化を日常的に確認することで、時間ではなく状態を見ながら保全することができます。

前回の清掃も、この状態確認の入り口です。

毎日設備を使う作業者が正常な状態を知っていれば、「いつもと違う」に早く気づくことができます。その気づきを保全担当者につなげることで、大きな故障になる前に対応できる可能性が高くなります。

計画停止を嫌うと、大きな停止を招く

生産が忙しい工場ほど、設備を止めて点検することを嫌う傾向があります。

「今は受注が多いから、点検は来月にしよう。」

その判断が何度も繰り返され、結果として設備が突然故障する。そして予定していなかった長時間の停止が発生します。

10時間止めて修理するより、事前に1時間止めて部品を交換した方が、生産への影響が小さいこともあります。

それでも計画停止を避けてしまうのは、設備が止まっている時間をすべて「損失」と考えてしまうからです。

しかし、設備の能力を長期間安定して使うためには、点検や部品交換のための時間も必要です。

私は、計画的に止めることと、故障によって止められることは全く違うと考えています。

自分たちで停止時間を決めることができれば、生産計画を調整し、人員を配置し、必要な部品も準備できます。突然の故障では、それができません。

計画停止とは、生産を止めることではなく、安定した生産を続けるための時間なのです。

製造と保全を分断しない

設備管理を保全部門だけの仕事にしてしまうと、予防保全は十分に機能しません。

保全担当者が毎日すべての設備を見続けることはできません。最も長い時間設備の近くにいるのは、製造現場の作業者です。

だから製造側には、清掃や給油、緩みの確認、異音や振動への気づきといった日常的な役割があります。一方で、専門的な診断や修理、計画保全については保全部門が担います。

それぞれの役割を分けながら、情報をつなぐことが重要です。

作業者が「少し音が違う」と感じても、それを誰にも伝えなければ保全にはつながりません。逆に、保全担当者が修理した原因や注意点を現場へ伝えなければ、作業者の設備に対する理解も深まりません。

設備を製造部門のもの、保全部門のものと分けるのではなく、会社の生産能力を支える共通の経営資源として管理する必要があります。

「壊れてから直す」から「壊れる前に気づく」へ

壊れてから直す設備管理では、現場は常に故障に振り回されます。

設備が止まり、急いで修理し、生産計画を変更し、残業で遅れを取り戻す。そして忙しさが落ち着くと、また通常の生産へ戻る。その繰り返しでは、いつまでたっても故障を減らすことができません。

そこから抜け出すためには、故障履歴を残し、原因を考え、設備の重要度を決め、日常点検と計画保全を組み合わせる必要があります。そして、製造と保全が設備の状態を共有し、小さな変化を大きな故障になる前に捉えていくことが大切です。

予防保全というと、高度な診断装置や新しいシステムを導入することを想像するかもしれません。しかし、その前にできることはたくさんあります。

過去に何が壊れたのかを知ること、正常な状態を知ること、日々の変化に気づくこと、そして同じ故障を繰り返さないことです。

設備保全の目的は、故障した設備を早く直すことだけではありません。

必要な時に、必要な能力を、安定して発揮できる設備を維持することです。

「壊れたら直す工場」から、「壊れる前に気づき、計画的に手を打つ工場」へ変わること。

それが、設備停止を減らすだけでなく、生産性、品質、納期、そして現場の働き方まで安定させることにつながるのではないでしょうか。