売上を増やすより先に考えるべきこと

― 「成長している会社」と「忙しくなった会社」は違う ―

「もっと売上を増やしたい。」

経営者であれば、当然考えることだと思います。売上が増えれば会社は成長し、利益も増える。一般的には、そのように考えます。

しかし、製造業では必ずしもそうとは限りません。

売上が増えたのに利益率が下がった。受注は増えたのに残業や外注ばかり増えた。在庫が膨らみ、資金繰りが苦しくなった。現場は以前より忙しくなったのに、会社にはお金が残らない。

こうしたことは実際に起こります。

だから私は、売上を増やす前にまず、**「今の会社は、売上が増えても利益とキャッシュを生み出せる体質になっているか」**を確認することが大切だと考えています。

売上が増えれば、仕事も一緒に増える

売上を20%増やそうとすれば、多くの場合、生産量も増えます。

材料の購入量が増え、設備の稼働時間が長くなり、物流量も増えます。現在の能力で対応できなければ、残業や休日出勤、外注、人員増強が必要になるかもしれません。

つまり、売上だけを20%増やせるわけではありません。

その売上を支えるために、どれだけの人、設備、在庫、資金が必要になるのかを同時に考える必要があります。

例えば売上が20%増えても、人件費や外注費が30%増えたのであれば、利益率は悪化するかもしれません。

現場から見れば生産量は増えています。しかし、経営から見れば「成長」ではなく、単に仕事量が増えただけという場合があります。

だから売上を見る時には、金額そのものだけでなく、その売上を作るために何を投入しているのかを見ることが重要です。

「限界まで忙しい工場」に受注を増やしてよいのか

受注拡大を考える前に確認したいのが、現在の生産能力です。

設備にはどれだけ余力があるのか。ボトルネックはどこなのか。現在の残業は一時的なものなのか、それとも慢性化しているのか。人員を増やさなくても改善によって対応できる余地があるのか。

工場がすでに限界に近い状態で売上だけを増やせば、現場にはさらに負荷がかかります。

その結果、納期遅延や品質問題が発生し、社員が疲弊する。せっかく売上を増やしても、それによって既存顧客からの信頼を失えば、長期的にはマイナスです。

経営者が見るべきなのは、「あとどれだけ売れるか」だけではありません。

**「あとどれだけ無理なく作れるか」**を見る必要があります。

そして、現在の能力を改善によって引き上げるのか、設備投資をするのか、人を増やすのか。それを考えた上で売上計画を立てることが重要です。

売上が増えるほどキャッシュが必要になることがある

もう一つ見落としやすいのが、キャッシュです。

売上が増えれば、お金も増えるように感じます。しかし、製造業では売上が増える前に支払いが発生することがあります。

材料を購入し、人件費を払い、製品を作り、出荷する。そしてお客様から入金されるまで待つ。

売上が増えれば、この一連の流れに必要な運転資金も増えます。

特に、在庫を多く持つ会社や売掛金の回収期間が長い会社では、売上が急激に増えるほど資金繰りが厳しくなることがあります。

帳簿上では利益が出ているのに、銀行口座のお金は減っている。

これは決して不思議なことではありません。

だから、売上計画を考える時にはP/Lだけではなく、その成長にいくらのキャッシュが必要になるのかまで考える必要があります。

「何を売るか」も重要になる

売上10億円といっても、すべての売上が同じ価値を持つわけではありません。

利益率の高い製品もあれば、ほとんど利益が出ない製品もあります。生産しやすい製品もあれば、段取りが多く、品質管理に手間がかかる製品もあります。

少量の注文なのに、そのたびに長時間の段取りが必要になる製品もあります。売上は大きくても、特殊な材料を大量に在庫しなければならない製品もあります。

だから経営では、「売上をいくら増やすか」だけではなく、**「どの売上を増やすか」**を考える必要があります。

同じ1億円の売上でも、利益、必要人員、設備負荷、在庫、キャッシュへの影響は大きく違います。

製品別、顧客別の利益や負荷を見ることで、「売上は大きいが実は会社を忙しくしているだけ」という仕事が見えてくることもあります。

売上を増やす前に、今の仕事を磨く

新規顧客を開拓することや新しい受注を獲得することは、会社の成長に欠かせません。

しかし、その前に、現在の売上をもっと良い経営成果へ変える余地がないかを考えることも大切です。

不良を減らせないか。材料歩留まりを改善できないか。段取り時間を短縮できないか。仕掛在庫を減らせないか。設備停止を減らせないか。

例えば、売上を10%増やすことと、現在の売上のまま利益率を2%改善することでは、どちらが会社にとって価値があるでしょうか。

これは単純には比較できません。

しかし、「売上を増やす」ことだけが成長ではないということは言えると思います。

同じ売上から、より多くの利益とキャッシュを生み出せる会社になることも成長だからです。

「大きい会社」ではなく「強い会社」を目指す

私は、会社の成長を売上だけで判断するべきではないと思っています。

売上が増え、社員数も増え、工場も大きくなった。しかし利益率は低下し、借入金が増え、社員は疲弊している。

一方で、売上は大きく変わらなくても、生産性が上がり、利益率が改善し、在庫が減り、キャッシュが増えている会社もあります。

どちらが本当に強い会社でしょうか。

会社経営には、それぞれ目指す姿がありますから、売上規模そのものを否定する必要はありません。

ただ、売上を増やすことを目的にするのではなく、売上を増やすことで会社をどう良くしたいのかを考える必要があります。

利益を増やし、新しい設備へ投資する。社員の処遇を改善する。新製品開発へ資金を使う。人材を育成する。

その先につながって初めて、売上成長に意味が生まれるのだと思います。

だから私は、「もっと売上を増やそう」と考える前に、一度問い直してみることが大切だと思っています。

その売上は、本当に利益を生むのか。
その売上を支える能力はあるのか。
その成長に必要なキャッシュは確保できるのか。

売上を増やすことよりも先に、売上が増えても耐えられる経営体質をつくる。

それが、持続的な成長への第一歩ではないでしょうか。