従業員の声を聞くだけでは組織は変わらない

― 「聞くこと」より、その後にどう動くかが信頼をつくる ―

「もっと社員の声を聞こう。」

組織を良くしようとすると、よく出てくる言葉です。従業員アンケートを実施したり、1on1を始めたり、改善提案制度をつくったりする会社も増えています。

私は、社員の声を聞くことはとても大切だと思っています。しかし、それだけで組織が良くなるわけではありません。

むしろ、せっかく意見を聞いたのに、その後何も起こらなければ、「言っても何も変わらない」という気持ちを社員に残してしまうことがあります。

大切なのは、どれだけ多くの意見を集めたかではありません。

聞いた声を、経営や職場の行動へどのようにつなげたかだと思います。

声を聞くこと自体が目的になっていないか

例えば、年に一度エンゲージメント調査を行い、社員から多くの意見が集まったとします。

「部門間の連携が悪い」「設備が使いにくい」「教育の時間が足りない」「上司と話す機会が少ない」といった意見が出てきます。

ところが、その結果が経営会議で報告され、「今後改善していきましょう」で終わってしまう。

翌年、また同じアンケートを実施すると、同じような意見が並ぶ。

これでは、社員からすれば「去年も書いたのに何も変わらなかった」と感じるでしょう。

アンケートを実施したことや、1on1を行ったことが成果なのではありません。そこで見つかった問題に対して、会社がどう向き合ったかが重要です。

社員の声を聞く仕組みをつくったのであれば、その先に「どうするか」という仕組みまで考える必要があります。

すべての要望に応える必要はない

一方で、社員から出た意見をすべて実現しなければならないわけではありません。

給与をもっと上げてほしい、休みを増やしてほしい、新しい設備を入れてほしい、人を増やしてほしい。社員の立場から見ればもっともな要望であっても、会社の経営状況や投資の優先順位によっては、すぐに対応できないこともあります。

ここで大切なのは、「聞くこと」と「言う通りにすること」を混同しないことです。

実現できる意見であれば行動する。検討が必要なら、いつまでに検討するのかを伝える。そして、できないのであれば、なぜできないのかを説明する。

私は、この「返すこと」が非常に重要だと思っています。

社員が求めているのは、必ずしも自分の意見がすべて採用されることではありません。少なくとも、自分が伝えたことを会社が受け止め、考えてくれたのかを知りたいのではないでしょうか。

小さな変化を実際に見せる

組織を変えるというと、大きな制度改革を考えがちです。しかし、社員の信頼をつくるためには、小さな変化でも十分意味があります。

例えば、「工具を探す時間が多い」という声があれば、置き場所を決めて表示する。「作業手順が分かりにくい」という声があれば、写真を使った標準書に変えてみる。「他部署との連絡が遅い」という問題があれば、朝の短い情報共有を試してみる。

こうした小さな変化でも、「自分たちが話したことが実際に職場を変えた」という経験になります。

この経験が積み重なると、社員の側にも変化が生まれます。

最初は不満として話していた人が、「こうすればもっと良くなるのではないか」と提案するようになる。さらに、自分から改善に参加するようになる。

声を聞くことの本当の価値は、意見を集めることではなく、社員自身が職場づくりに参加するきっかけをつくることにあると思います。

何も言われなくなった職場の方が怖い

経営者や管理者からすると、社員から不満や問題を言われることを負担に感じる時もあります。

しかし私は、問題を言ってくれる職場の方が健全だと思っています。

本当に怖いのは、何も言われなくなることです。

設備が使いにくくても何も言わない。仕事の進め方に問題があっても黙っている。上司との関係に悩んでいても相談しない。

それは問題がなくなったのではなく、「言っても仕方がない」と考えるようになった可能性があります。

社員が声を上げるかどうかは、過去に声を上げた時に会社がどう反応したかによって変わります。

だから心理的安全性も、単に「何でも言ってください」と呼びかけることで生まれるものではありません。

言った後にどう扱われたか。その積み重ねによって、「ここでは話しても大丈夫」という感覚がつくられていくのだと思います。

管理者は「答える人」ではなく「つなぐ人」

現場の声を経営につなぐ上で、管理者の役割はとても大きいと思います。

部下から相談を受けた時、すぐに答えを出せる問題ばかりではありません。設備投資が必要なこともあれば、人員配置や会社の制度に関わることもあります。

その場合、管理者が一人で抱え込む必要はありません。

自分で解決できることは解決し、上位の判断が必要なことはきちんと上げる。そして、結果を社員へ返す。

この流れをつくることが大切です。

逆に、「それは会社が決めることだから」「昔からそうなっているから」とその場で止めてしまえば、社員の声は経営まで届きません。

管理者には、上からの方針を現場へ伝える役割と同時に、現場の事実を経営へ伝える役割があります。

組織の中で上下をつなぐことも、管理者の重要な仕事だと思います。

聞いたら、必ず何かを返す

社員の声を生かすために、難しい制度をつくる必要はありません。

大切なのは、聞いたままにしないことです。

すぐにできることなら動く。時間が必要なら、そのことを伝える。実施できないのであれば、理由を説明する。そして実施したものについては、「皆さんから出た意見をもとに変えました」と伝える。

この循環があることで、社員は「話してよかった」と感じることができます。

そして、その経験が次の対話につながります。

私は、組織における信頼とは、大きな施策によって一度につくられるものではなく、このような小さなやり取りの積み重ねによってつくられるものだと思っています。

「聞く会社」から「一緒に変える会社」へ

社員の声を聞くことは、組織づくりの出発点です。しかし、それだけでは十分ではありません。

大切なのは、聞いた内容を経営や現場の行動につなげ、その結果を社員へ返すことです。

そして、社員も単なる要望を伝えるだけではなく、どうすれば良くなるのかを一緒に考える。

会社が社員の声を聞き、社員も会社の事情を理解しながら改善に参加する。こうした双方向の関係ができれば、職場は少しずつ変わっていきます。

前回、エンゲージメントとは「自分もこの会社をつくっている」という感覚ではないかと書きました。

その感覚を育てるためにも、社員の声を聞くだけで終わらせてはいけません。

「言ってください」から、「一緒に考えましょう」へ。そして、「一緒に変えていきましょう」へ。

社員の声が実際の行動につながった時、初めて対話は組織を変える力になるのではないでしょうか。