フォーキャストを信じすぎてはいけない

― 予測は「当てるもの」ではなく、変化に備えるために使う ―

生産計画を作る時、営業部門からフォーキャストが出てきます。

「来月は1万個売れる見込みです。」

この数字をそのまま生産計画に入れてしまう会社もあります。しかし私は、フォーキャストを「未来の確定値」のように扱うことには注意が必要だと思っています。

フォーキャストは、あくまで現時点で得られている情報をもとにした予測です。市場環境、お客様の事情、競合、季節変動などによって、実際の受注量は変わります。

だから大切なのは、予測を当てることだけではありません。

予測が外れた時にも対応できる生産の仕組みをつくることです。

フォーキャストと受注は同じではない

営業担当者は、お客様との会話や過去の販売実績、市場動向などから販売数量を予測します。

その情報は非常に重要です。しかし、「売れそうだ」という情報と、「実際に注文が確定している」という情報は違います。

例えば、営業から来月1万個というフォーキャストが出たとしても、その中にはほぼ確実な数量もあれば、まだ可能性の段階にある数量も含まれているかもしれません。

ところが生産側がその違いを理解せず、1万個すべてを確定需要として生産すれば、予測が外れた時に在庫が残ります。

反対に、「どうせ予測だから」と信用しなければ、実際に注文が入った時に対応できず、欠品する可能性があります。

だから私は、フォーキャストを見る時に、単に一つの数字として受け取るのではなく、その数字の「確からしさ」を考えることが重要だと思っています。

予測が外れることを問題にしすぎない

フォーキャストと実績が違うと、「営業の予測精度が悪い」という話になりがちです。

もちろん、予測精度を高める努力は必要です。

しかし、未来を完全に当てることはできません。

特に新製品、季節商品、景気変動の影響を受ける製品では、需要は大きく変わることがあります。

それにもかかわらず、毎月「予測を当てろ」と言い続けると、別の問題が起こります。

例えば、営業担当者が欠品を恐れて高めの数字を出すようになるかもしれません。すると生産側は多めに作り、在庫が増えます。

反対に、在庫を増やしたくないという圧力が強ければ、低めの予測を出すこともあります。

重要なのは、誰が予測を外したかを責めることではありません。

「なぜ外れたのか」を振り返り、次の計画へ学習を反映させることです。

一つの数字ではなく「幅」で考える

私は、フォーキャストには幅を持たせて考えることが有効だと思っています。

例えば、「来月は1万個です」と一点で考えるのではなく、「最低でも8千個程度、通常なら1万個、条件によっては1万2千個まで増える可能性がある」と考えます。

そうすると、生産側の考え方も変わります。

8千個までは確実に対応する。1万個程度までなら通常の生産体制で対応できる。1万2千個になった場合には、残業や追加シフト、外注などを検討する。

このように需要の変動幅と生産能力を合わせて見ることで、フォーキャストを単なる数字ではなく、意思決定の材料として使えるようになります。

未来を一点で当てるよりも、いくつかの可能性を想定し、それぞれにどう対応するかを考えておく。

この方が、変化の大きい経営環境には適していると思います。

在庫はフォーキャストの誤差を吸収する役割もある

需要が完全に予測できない以上、ある程度の在庫は必要になります。

ただし、「予測が外れるから多めに持とう」と考えてしまうと、在庫は際限なく増えていきます。

ここで大切なのは、どの製品に、どれだけ在庫を持つのかを考えることです。

需要が安定していて、欠品した時の影響が大きい製品であれば、一定の安全在庫を持つ意味があります。

一方で、需要変動が大きく、売れ残った場合に使い道のない製品を大量に作れば、大きなリスクになります。

だから在庫は、単に「多い・少ない」で考えるものではありません。

需要の変動、製造リードタイム、調達リードタイム、欠品時の影響などを踏まえて設計する必要があります。

フォーキャストの誤差を、在庫だけで吸収するのではなく、生産の柔軟性と組み合わせて考えることが重要です。

本当に必要なのは「予測精度」だけではなく「対応力」

需要変動に強い会社は、必ずしも予測が特別に上手い会社とは限りません。

予測が外れても、比較的短期間で生産量を増減できる会社の方が、変化には強い場合があります。

段取り時間が短い。多能工化が進んでいる。仕掛在庫が見える。材料調達のリードタイムが管理されている。生産計画の見直しが短い周期で行われている。

こうした仕組みがあれば、需要が変わった時にも対応しやすくなります。

反対に、半年先まで細かく計画していても、大ロット生産しかできず、一度決めた計画を変更できない工場では、需要変動に弱くなります。

私は、ここが非常に重要だと思っています。

フォーキャストを改善することと同時に、フォーキャストが外れた時にどう対応するかを考えておく必要があります。

営業と製造が一緒に予測を見る

フォーキャストの問題を営業だけの責任にすると、部門間の対立が生まれます。

営業は「お客様が急に変えた」と言い、製造は「また計画が変わった」と不満を持つ。

しかし、市場の変化は営業だけの問題ではありません。

だから私は、営業と製造、生産管理が定期的に同じ数字を見ることが大切だと思っています。

前回の予測と実績はどれくらい違ったのか。どの製品の変動が大きいのか。今後の受注にどんな変化がありそうなのか。その変化に対して、設備、人員、材料は対応できるのか。

こうした話を共有することで、フォーキャストは「営業が出して製造が受け取る数字」から、「会社全体で判断するための情報」に変わります。

フォーキャストは未来を当てるためのものではない

フォーキャストは必要です。

材料を準備し、人員を配置し、設備計画を立てるためには、将来の需要をある程度想定しなければなりません。

しかし、予測を精密にすることだけに力を使いすぎると、「その数字が当たること」を前提にした生産体制になってしまいます。

私は、フォーキャストの本当の役割は、未来を正確に当てることではなく、未来の変化に備えることだと考えています。

予測を立てる。そして実績との差を見る。その違いから学び、生産能力や在庫の持ち方を見直す。さらに次の予測へ反映する。

この循環を続けることが重要です。

フォーキャストを信じることは必要です。しかし、信じすぎてはいけません。

「この数字は本当に確定しているのか」「外れた場合にはどうするのか」と常に考える。

予測精度を高めながら、同時に予測が外れても対応できる力を持つ。

私は、その両方を備えた会社こそ、需要変動に強い製造業になれるのだと思います。