エンゲージメントは「社員満足度」ではない

― 働きやすさの先にある、「自分も会社を良くしたい」という気持ち ―

「社員の満足度を高めれば、エンゲージメントも高まる。」

そう考えがちですが、私は社員満足度とエンゲージメントは同じものではないと思っています。

給与や福利厚生、休暇制度、職場環境などを整えることはもちろん重要です。しかし、働きやすく、不満も少ないからといって、社員が自分から会社を良くしようと考えるとは限りません。

言われた仕事はきちんとする。しかし、それ以上には関わらない。改善案も出さず、新しいことにも挑戦しない。この状態でも、社員満足度は高いかもしれません。

エンゲージメントとは、単に会社に満足していることではなく、自分の仕事や会社に主体的に関わり、もっと良くしたいと思える状態ではないでしょうか。

「不満がない」と「主体的に働く」は違う

社員満足度は、どちらかというと「会社から自分に何を与えてもらえるか」という視点になりやすいと思います。給与は十分か、休みは取れるか、職場環境は良いか、人間関係に問題はないか。もちろん、これらは働き続けるための大切な条件です。

一方で、エンゲージメントには「自分はこの会社や仕事にどう関わりたいのか」という視点があります。

例えば、「この工程をもっと良くしたい」「お客様にもっと良い製品を届けたい」「後輩を育てたい」「会社の目標達成に自分も貢献したい」と考える。そこには、自分自身が会社の一員として参加している感覚があります。

つまり、不満をなくすことはエンゲージメントの土台にはなりますが、それだけでは十分ではありません。

自分の仕事の意味が見えているか

製造現場では、毎日同じ作業を繰り返す仕事も多くあります。材料をセットし、加工し、検査し、梱包する。その作業だけを見れば、単調に感じることもあるでしょう。

しかし、その仕事の先には必ずお客様がいます。

自分が品質を守ることで、お客様が安心して製品を使える。設備を安定して動かすことで納期を守れる。改善によって生産性を上げることで、会社の競争力を高められる。

こうしたつながりが見えると、仕事は単なる「作業」から意味のあるものに変わります。

だから経営者や管理者には、会社の目標を伝えるだけでなく、一人ひとりの仕事が、その目標やお客様にどうつながっているのかを伝える役割があります。

「あなたの仕事が必要だ」と感じられることは、エンゲージメントにとって非常に重要だと思います。

「自分の意見で職場が変わった」という経験

現場の社員が改善案を出しても、何も変わらない。困っていることを伝えても、「今は忙しいから」と終わる。その状態が続けば、やがて社員は何も言わなくなります。

「言っても変わらない。」

この感覚が定着すると、主体性は失われていきます。

反対に、小さなことであっても、自分の提案によって職場が良くなった経験は大きな意味を持ちます。工具の置き場所を変えたことで作業が楽になった。設備の改善案が採用され、停止が減った。その成果を管理者が認めてくれた。

こうした経験を通して、「自分もこの職場を良くすることができる」という感覚が生まれます。

エンゲージメントとは、会社から与えられるものではありません。自分も会社をつくっているという実感の中から育っていくものだと思います。

主体性を求めるなら、任せる必要がある

「もっと自分で考えてほしい」と言いながら、管理者がすべて細かく指示している職場があります。

何をするか、どうするか、いつするかまで上司が決め、判断する前には必ず確認を求める。その状態で社員に主体性を求めても難しいでしょう。

人は、任されることで初めて自分で考えるようになります。

もちろん、経験の浅い社員にいきなり大きな責任を任せる必要はありません。最初は小さな改善から始め、少しずつ判断できる範囲を広げていけばよいのです。

自分で考え、実行し、結果を確認する。その経験を積み重ねることで、仕事は「指示されたこと」から「自分が担っていること」に変わっていきます。

エンゲージメントを高めたいのであれば、社員に主体性を求めるだけでなく、主体的に働ける余地を会社側がつくることも必要です。

エンゲージメントは日々のマネジメントで決まる

社員にとって「会社」は少し遠い存在です。実際に毎日接するのは、直属の上司や同僚です。

困った時に話を聞いてもらえるか。良い仕事をした時に気づいてもらえるか。失敗した時に責めるだけで終わらないか。成長について一緒に考えてもらえるか。

こうした日々の積み重ねを通して、社員は会社を感じています。

だから、エンゲージメント向上は人事制度だけでは実現できません。特別なイベントやアンケートを行うこと以上に、現場の管理者が社員と日常的にどう関わっているかが重要です。

1on1も、そのための一つの手段です。しかし、制度として面談を行うだけでは意味がありません。大切なのは、社員の話を聞き、考えを知り、期待を伝え、必要であれば仕事を任せていくことです。

「満足する会社」から「参加したくなる会社」へ

私は、エンゲージメントの目的を「社員にもっと頑張ってもらうこと」にしてはいけないと思っています。

社員は自分の能力を発揮し、成長し、仕事の意味を感じる。会社は、その力によって品質や生産性、改善力を高め、成長する。

社員の成長と会社の成長が、同じ方向を向いている状態。

そこを目指すことが大切ではないでしょうか。

働きやすい会社をつくることは必要です。しかし、その先に、自分の仕事の意味が分かり、自分の意見が職場を変え、自分自身も成長できる環境をつくる。

すると、「この会社で働いている」という感覚から、

「自分もこの会社をつくっている」

という感覚へ変わっていきます。

エンゲージメントとは、社員満足度を高めることだけではありません。

会社と社員が、お互いの成長に関わり合える関係をつくること。

私は、そこにエンゲージメントの本質があると考えています。