「人が足りない。でも、人は増やせない。」から始める経営改革

― “ないもの”を嘆くのではなく、“あるもの”から未来をつくる ―

「人が足りない。でも、人は増やせない。」

今、多くの中小製造業が抱えている現実ではないでしょうか。

採用をかけても応募が来ない。採用できても定着しない。人件費は上昇し、ベテラン社員の退職も近づいている。それでも、お客様から求められる品質や納期を落とすことはできません。

こうした状況になると、「もっと人がいれば」「もっと設備があれば」「もっと予算があれば」と、足りないものに目が向きがちです。

しかし、ないものを待っていても状況は変わりません。

そこで私は、**「今ある人、設備、技術、知識、人とのつながりを使って、何ができるか」**から考えることが大切だと思っています。

これは、私が取り組んでいるEffectuationの考え方にもつながります。今後の活動でもEffectuationを学び、製造業支援や次世代教育へ生かしていくことを一つの柱にしています。

人手不足を「採用問題」だけにしない

人が足りなければ、まず採用を考える。これは自然なことです。

しかし、採用だけで人手不足を解決しようとすると、これからはますます難しくなるでしょう。

だからこそ、「5人必要な仕事だから5人採用する」と考える前に、その仕事が本当に5人必要なのかを見直す必要があります。

工程の中に、探す、待つ、運ぶ、やり直すといった時間はないか。昔から続いているだけの作業はないか。特定の人にしかできない仕事はないか。設備の能力を十分に引き出せているか。

仕事の仕組みを変えることで、5人必要だった仕事が4人でできるようになるかもしれません。

そこで生まれた1人分の余力は、人を削減するためではなく、改善、教育、新製品の立ち上げなど、より価値の高い仕事へ使うことができます。

人手不足を、人を増やす問題ではなく、仕事を変える問題として考える。

ここから経営改革が始まります。

「新しい設備」の前に、今ある設備を見る

人手不足への対応として、自動化や省力化設備への投資も重要です。

しかし、新しい設備を購入する前に、今ある設備の可能性を十分に確認しているでしょうか。

段取り時間を短縮する。治具を改善する。レイアウトを変える。チョコ停を減らす。簡単な機構を付加する。

こうした改善によって、既存設備の能力が大きく変わることがあります。

必ずしも数千万円の自動化設備でなければ、生産性を上げられないわけではありません。

むしろ、現場に長年蓄積されてきた技術や工夫を組み合わせることで、少ない投資から大きな成果につながることがあります。

重要なのは、「何を買うか」から考えるのではなく、「今あるものをどう使い切るか」から考えることです。

人の能力も「今ある資源」である

設備や技術だけではありません。

今いる社員一人ひとりが持っている経験や知識も、大切な経営資源です。

ある人は設備に詳しい。ある人は段取りが得意。別の人は品質問題への気づきが鋭い。営業経験がある人、ITに詳しい人、若い社員ならではの新しい発想を持つ人もいます。

ところが、会社がその能力を十分に把握していなければ、本人の担当業務の中だけで使われて終わってしまいます。

「誰が、何を知っているのか」「何が得意なのか」を見える化し、それぞれの能力を掛け合わせることで、新しい改善や製品開発につながる可能性があります。

人手不足だからこそ、人数だけを見るのではなく、今いる人の能力をどれだけ引き出せているかを考える必要があります。

小さく試してから広げる

新しい取り組みを始めようとすると、「失敗したらどうするのか」という話になります。

そのため、十分な予算、十分な人員、十分なデータが揃うまで動けない会社もあります。

しかし、環境変化の速い時代に、すべてが揃うまで待っていたら機会を逃してしまいます。

そこで大切なのは、最初から大きな成果を狙うのではなく、失敗しても許容できる範囲で小さく試してみることです。

一つの工程だけで試す。一つの製品だけで試す。既存設備を改造して試してみる。そして、うまくいけば少しずつ広げる。

大規模な投資ありきではなく、小さな実験を繰り返しながら前へ進む。

この考え方は、予算や人員に制約のある中小製造業だからこそ、有効だと思っています。

「ないもの」から「あるもの」へ

人がいない。お金がない。技術者がいない。設備が足りない。

これらは現実として存在する制約です。

しかし、経営改革は、その制約がなくなってから始めるものではありません。

今いる人には、どんな経験があるのか。今ある設備には、まだどんな能力が残っているのか。自社が長年培ってきた技術を、別の用途に使えないか。取引先や地域企業、専門家とのつながりを活用できないか。

そうやって「あるもの」を一つずつ見直していくと、これまで見えていなかった選択肢が生まれます。

私自身、これからの製造業支援では、改善技術だけでなく、こうしたEffectuationの考え方を組み合わせることが重要だと考えています。製造業で培ってきた経験を、体系化し、人材育成や仕組みづくりとして社会へ残していくことも、今後の活動の大きな方向性です。

制約は、変革の出発点になる

「人が足りない。でも、人は増やせない。」

この状況を、単なる経営上の弱点として見る必要はありません。

むしろ、それまで当たり前だった仕事のやり方を見直し、設備の使い方を変え、人の能力を引き出し、新しい技術や製品を生み出すきっかけにもなります。

十分な人も、十分な予算も、十分な設備も揃っている会社はほとんどありません。

だからこそ、

“ないもの”を数えるのではなく、“あるもの”から始める。

そして、小さく試し、人とつながりながら、できることを少しずつ広げていく。

人手不足の時代に必要なのは、人を増やすことだけではありません。

限られた経営資源から、新しい価値を生み出せる会社へ変わっていくこと。

「人が足りない。でも、人は増やせない。」

その制約こそが、会社を変える最初のきっかけになるのではないでしょうか。