「利益が出ているから大丈夫」が一番危ない

― 製造業経営者が見るべき5つの数字 ―

「今期も利益が出ているから、経営は順調だ。」

決算書を見て、そう判断してしまうことがあります。しかし、製造業では利益が出ていることと、会社が健全であることは必ずしも同じではありません。

売上も利益も伸びているのに、なぜか資金繰りが苦しい。倉庫には製品や材料が増え続け、設備は忙しく動いているのに納期は改善しない。残業をしているのに、一人当たりの生産量は上がらない。

こうしたことは、決して珍しくありません。

製造業の経営では、P/L(損益計算書)だけを見ていても、工場の本当の状態は分かりません。私が工場経営や製造業支援に携わる中で重要だと感じているのは、利益だけではなく、「在庫」「キャッシュ」「設備」「人」という経営資源がどのように動いているかを見ることです。

では、経営者は何を見ればよいのでしょうか。

1.利益――「いくら儲かったか」だけで終わらせない

もちろん、利益は重要です。ただし、営業利益の金額だけを見ても十分ではありません。

売上が増えた結果として利益が増えたのか。それとも、原価低減や生産性向上によって利益率が改善したのか。この二つは意味がまったく違います。

例えば、売上が20%増えたのに残業、人員、外注費、物流費なども大幅に増え、営業利益率が低下しているのであれば、会社は「成長している」のではなく、忙しくなっているだけかもしれません。

したがって、営業利益額だけでなく、粗利益率や営業利益率の推移を見ることが大切です。そして、その変化が「数量」「単価」「材料費」「労務費」「生産性」のどこから生まれたのかまで掘り下げる必要があります。

2.在庫――棚にあるものは本当に「資産」なのか

会計上、在庫は資産です。

しかし、経営の視点では必ずしもそうとは限りません。

売れる見込みの薄い製品、使う予定のない材料、工程間に積み上がった仕掛品。それらに使ったお金は、売れて現金になるまで戻ってきません。

つまり在庫とは、言い換えれば会社のお金がモノの形になって工場の中で止まっている状態でもあります。

特に製造業では、

「欠品が怖いから多めに作っておこう」

「設備が空いているから今のうちに作っておこう」

「まとめて作った方が効率がいい」

という判断が在庫増加につながりやすくなります。

一つひとつは合理的に見えても、会社全体で見ると大量の資金が在庫として眠っていることがあります。

在庫金額だけでなく、在庫回転率、在庫日数、仕掛在庫、長期滞留在庫などを定期的に見ることが重要です。

3.キャッシュ――利益と現金は違う

製造業経営で非常に重要なのがキャッシュです。

「利益が出ているのにお金がない」ということは普通に起こります。

例えば、1,000万円の利益を出していても、その一方で在庫が2,000万円増えていたらどうでしょう。さらに設備投資で3,000万円を使っていれば、帳簿上は黒字でも現金は減っていきます。

だからこそ、経営者はP/Lだけでなく、キャッシュフローを見る必要があります。

売上が伸びること自体は良いことですが、売掛金や在庫も同時に増えていけば運転資金が必要になります。成長すればするほど資金繰りが苦しくなる会社さえあります。

私は、製造業の現場改善を考える時にも、キャッシュとのつながりを意識することが重要だと考えています。

在庫を減らす。仕掛を減らす。リードタイムを短くする。不良を減らす。

これらは単なる現場改善ではなく、キャッシュを生み出す経営改善でもあるからです。

4.設備――「動いている」と「稼いでいる」は違う

工場に行くと、

「この設備はほぼ100%動いています」

という説明を聞くことがあります。

しかし、ここでも注意が必要です。

設備が動いていることと、会社に利益を生み出していることは同じではありません。

必要以上の製品を作って在庫を増やしているのであれば、高い稼働率はむしろ問題になることがあります。また、設備は動いていても、チョコ停、速度低下、不良、段取りなどによって本来の能力を十分に発揮できていない場合もあります。

そこで重要になるのが、OEE(設備総合効率)や停止時間、段取り時間、不良率などです。

「何時間動いたか」ではなく、必要なものを、必要な時に、必要な品質と速度で作れているか。

この視点で設備を見ると、単純な稼働率とは違う工場の姿が見えてきます。

5.生産性――「忙しい」を数字に変える

そして最後が生産性です。

現場から「忙しい」「人が足りない」という声が出た時、すぐに採用を考える会社があります。

しかし、その前に確認したい数字があります。

一人当たり、あるいは一時間当たり、どれだけの価値を生み出しているか。

例えば、生産金額÷投入人員、付加価値÷労働時間など、自社に合った指標を継続して見ることで、生産性の変化が分かります。

人を増やした結果、売上は伸びた。しかし一人当たり生産性は下がった。

反対に、売上は変わらなくても、段取り改善や多能工化によって少ない人数で生産できるようになった。

この二つでは、会社の経営体質は大きく違います。

人手不足が今後さらに大きな経営課題になる中、売上だけでなく**「一人当たりどれだけの価値を生み出せているか」**を見ることは、ますます重要になるでしょう。

利益は「結果」、その前に原因を見る

経営者が毎月見るべき数字をまとめると、

利益、在庫、キャッシュ、設備、生産性。

この5つです。

大切なのは、これらを別々に見ないことです。

生産性が悪化する。残業が増える。原価が上がる。利益率が下がる。

あるいは、設備を高稼働させる。必要以上に生産する。在庫が増える。キャッシュが減る。

このように、工場の中で起きていることはすべてつながっています。

私は、利益は「結果の数字」であり、在庫・設備・人・生産性には、その結果を生み出している「原因」が隠れていると考えています。

決算書だけを眺めるのではなく、経営者自身が現場を歩き、数字と現物を結びつけて考える。

「利益が出ているから大丈夫」ではなく、

「なぜ利益が出ているのか。そして、この利益は来年も続くのか。」

そこまで問い続けることが、強い製造業をつくる第一歩ではないでしょうか。