「人が足りない」の前に考えるべきこと
― 採用する前に、今の仕事のつくり方を見直す ―
「人が足りない。」
今、多くの製造業で聞く言葉です。
採用をかけても応募が来ない。若い人が定着しない。ベテランが退職する。受注はあるのに、生産する人が足りない。
確かに、人手不足は深刻な経営課題です。
しかし私は、「人が足りない」と感じた時ほど、すぐに採用へ進むのではなく、まず一度立ち止まって考える必要があると思っています。
本当に人が足りないのでしょうか。
それとも、今いる人の時間が、価値を生まない仕事に使われすぎているのでしょうか。
人が足りないのか、仕事が多すぎるのか
工場を歩いていると、作業者が一生懸命働いているにもかかわらず、生産性が上がらない職場があります。
材料を取りに何度も歩く。工具を探す。前工程から品物が来るのを待つ。帳票を何度も記入する。設備トラブルのたびに人が集まる。間違いを修正するために、同じ仕事をもう一度行う。
本人たちは忙しく働いています。
しかし、その忙しさの中には、お客様にとって価値を生み出していない時間も含まれています。
例えば、10人が毎日30分ずつ「探す・待つ・運ぶ」に使っていれば、1日で5時間です。それが年間続けば、非常に大きな時間になります。
この状態でさらに1人採用しても、ムダの多い仕事の仕組みに人を追加するだけかもしれません。
だから私は、人手不足への最初の対応は採用ではなく、現在の仕事を見える化することだと考えています。
「昔からこうしている」を疑う
製造現場には、長い間続いてきた仕事のやり方があります。
「この帳票は昔から書いています。」
「材料はここまで取りに行くものです。」
「この工程は2人でやるものです。」
「この確認は念のため必要です。」
こうした仕事には、かつて必要だった理由があったはずです。しかし、設備や製品、組織、情報システムが変わっても、仕事だけがそのまま残っていることがあります。
一つひとつの作業について、「これは何のためにやっているのか」と問い直してみると、意外と答えられないものがあります。
人手不足の時代だからこそ、新しい人を探すことと同じくらい、今ある仕事そのものを減らすことが重要になります。
やめられる仕事はないか。回数を減らせないか。まとめられないか。場所を変えられないか。機械やシステムに任せられないか。
この問いを繰り返すだけでも、現場の負担は大きく変わります。
多能工化は「人を便利に使うこと」ではない
人手不足対策として、多能工化もよく挙げられます。
しかし、多能工化を単に「何でもできる人を増やすこと」と考えると、かえって一部の人に仕事が集中します。
重要なのは、誰がどの仕事をできるのかを把握し、仕事を特定の人に依存させないことです。
「あの人が休むと、この設備を動かせない。」
「あの人しか段取りができない。」
「あの人が辞めたら、この製品は作れない。」
こうした状態は、人手不足以上に大きな経営リスクです。
技能を見える化し、標準作業を整え、少しずつ教育していくことで、仕事を複数の人が支えられる状態にしていく。
多能工化とは、人に多くの仕事を背負わせることではなく、組織として仕事を支えられる力を高めることだと思います。
自動化の前に「なくせないか」を考える
人手不足になると、自動化や省力化設備の導入を考える企業も増えます。
もちろん、自動化は重要な選択肢です。
しかし、ムダの多い仕事をそのまま自動化すると、ムダを高速化するだけになることがあります。
例えば、人が長い距離を部品搬送しているから搬送設備を導入する。その前に、工程の配置を近づけられないかを考える。
同じ情報を何度も入力しているからシステムを導入する。その前に、その入力そのものが必要なのかを考える。
設備投資の前に、まず仕事をなくす、減らす、簡単にする。
その上で、本当に人がやる必要のない部分を自動化する。
この順番が大切です。
人手不足は、経営の仕組みを見直す機会でもある
私は、人手不足を単に「採用できない問題」と捉えない方がよいと思っています。
人が足りないからこそ、これまで当たり前に行ってきた仕事を見直す機会になります。
仕事の流れを見直す。標準化する。多能工化する。設備を改善する。情報を整理する。そして、人にしかできない仕事へ時間を振り向ける。
こうした改善を積み重ねた上で、それでも人が足りなければ、その時に初めて必要な人数が明確になります。
採用してから仕事を考えるのではなく、仕事を整えてから、本当に必要な人を採用する。
この順番が、人手不足時代にはますます重要になると思います。
人を増やす前に、人の時間を取り戻す
製造業にとって、人は最も重要な経営資源の一つです。
だからこそ、人手不足への対応を「人数を増やすこと」だけで考えるべきではありません。
今いる人が、探す、待つ、運ぶ、やり直すといった仕事に時間を奪われていないか。その人にしかできない仕事が増えすぎていないか。昔から続いているだけの仕事が残っていないか。
そこを見直すだけでも、工場の中にはまだ多くの時間が残されていることがあります。
「人が足りない」と感じた時、最初に考えるべきなのは、
どうやって人を増やすかではなく、どうすれば今いる人が価値ある仕事に集中できるか。
ではないでしょうか。
人手不足を、人を増やす問題だけで終わらせない。
仕事の仕組みそのものを変えるきっかけにする。
それが、これからの製造業に必要な人手不足への向き合い方だと考えています。



