「作れるだけ作る」が在庫を増やす

― Push型生産の落とし穴 ―

工場では、設備や人に余力があると、

「今のうちに作っておこう」

という判断が起こりやすくなります。

段取り替えも減らせる。設備も遊ばせずに済む。まとめて作れば効率も良い。一見すると、非常に合理的です。

しかし、この「作れるだけ作る」という考え方が、気づかないうちに在庫を増やし、キャッシュを圧迫し、生産の柔軟性まで失わせることがあります。

これが、Push型生産の代表的な落とし穴です。

生産能力と需要は同じではない

Push型生産では、需要予測や生産計画をもとに、前工程から後工程へ製品を“押し出す”ように生産します。

需要が安定していて予測精度が高い場合には、有効な方法です。しかし、需要が変動する環境では、計画した数量と実際に売れる数量にズレが生じます。

その時に、

「設備が空いているから」

「来月使うかもしれないから」

「まとめて作った方が効率が良いから」

という理由で作り続けると、必要量以上の製品や仕掛品が工場内に蓄積されていきます。

ここで重要なのは、作れる量と、作るべき量は違うということです。

在庫は安心を生むが、問題も隠す

在庫があると現場は安心します。

完成品が多ければ急な注文にも対応できますし、仕掛品を多めに持っていれば、前工程が止まっても後工程を動かすことができます。

しかし、その安心感が問題を見えにくくすることがあります。

設備故障が多いから余分に作る。段取り時間が長いから大量にまとめて作る。生産計画の精度が低いから多めに在庫を持つ。

本来改善すべき問題を、在庫によって吸収している状態です。

在庫を減らそうとすると問題が表面化します。だから在庫削減は、単に在庫数量を減らす活動ではありません。

工場の問題を見えるようにする活動でもあります。

「まとめて作る方が安い」は本当か

製造現場では、「少量ずつ作るより、一度に大量に作った方が効率が良い」と考えます。

確かに、段取り時間だけを考えれば、その通りです。

しかし会社全体で考えると、話は変わります。

大量に作れば、在庫を保管する場所が必要になります。製品を移動させる作業も増えます。需要が変化すれば売れ残る可能性もあります。仕様変更があれば、せっかく作った製品が使えなくなることもあります。

何より、材料を購入し、人件費やエネルギーを使って作った製品は、売れて入金されるまでキャッシュに戻りません。

部分的な生産効率を高めた結果、会社全体では資金効率を悪化させてしまうことがあります。

だから、「1個当たりの製造コスト」だけではなく、在庫やキャッシュまで含めて、本当に安いのかを考える必要があります。

PushとPullを使い分ける

だからといって、Push型生産が悪いわけではありません。

需要が安定している製品や、一定量を常に確保する必要がある製品では、予測をもとにした生産が必要です。

一方で、需要変動が大きい製品や多品種少量生産では、実際の消費や受注を起点として生産するPull型の考え方が有効になります。

重要なのは、PushかPullかを二者択一で考えることではありません。

製品ごとの需要特性、納期、段取り時間、設備能力、在庫リスクを考えながら、どこまでを予測で作り、どこからを実需で動かすのかを設計することです。

実際の工場では、PushとPullを適切に組み合わせることが現実的だと私は考えています。

「設備を止めない」から「流れを止めない」へ

設備稼働率を重視しすぎると、設備を止めないこと自体が目的になることがあります。

しかし、製造業の目的は設備を動かすことではありません。

お客様が必要とする製品を、必要な時に、必要な量だけ届け、その結果として利益とキャッシュを生み出すことです。

設備が100%動いていても、製品が倉庫に積み上がっているのであれば、それは必ずしも良い工場とは言えません。

大切なのは、

設備を止めないことではなく、材料・情報・製品・キャッシュの流れを止めないこと。

「作れるから作る」ではなく、「必要だから作る」。

この考え方への転換が、在庫を減らし、変化に強い工場をつくる第一歩ではないでしょうか。