経営の原点「利他」:企業の目的は利益以上に、縁ある人々を幸せにすること

「企業である以上、利益の追求が最優先だ」

「利他や社会貢献は、会社が儲かってから考えるものだ」

ビジネスの現場では、今なおこのような「利己(自社の利益)」を最優先とする考え方が主流かもしれません。確かに、利益がなければ会社は存続できませんし、社員の雇用を守ることもできません。

「自社の利益だけを追い求める企業は、いずれ衰退する。経営の原点に『利他』を据え、縁ある人々を幸せにすることを目的とした企業こそが、結果として最も強いレジリエンス(復元力)を持ち、持続的に繁栄する」ということです。

今回は、なぜ「利他」が綺麗事ではなく、最強の経営戦略であるのか、その本質をお伝えします。

■ 利益は「目的」ではなく、社会に貢献した「結果」である

多くの企業が陥る罠は、利益を上げることを「目的」にしてしまうことです。利益が目的になると、手段を選ばなくなります。

現場に無理な労働を強いて、コストを削減する(安全の軽視)

取引先に過度な値下げを要求し、自社の利益を確保する(他者の排除)

短期的な数字を追うあまり、若手社員の育成を怠る(未来への投資不足)

これらはすべて、自分たちの都合だけを優先する「利己」の姿勢です。一時的には数字が出るかもしれませんが、長続きはしません。現場からは誇りが失われ、離職率が高まり、やがて顧客や地域社会からも見放されていきます。

経営の原点である「利他」とは、「自らの利益のみならず他者を想うこと」です。 企業の本当の目的は、利益以上に、「縁ある人々(従業員、その家族、顧客、取引先、地域社会)を幸せにし、社会に貢献すること」にあります。

利益とは、目的ではなく、「他者を幸せにし、社会の課題を解決した結果として、後から社会から与えられる報酬(通信簿)」に過ぎないのです。

■ 現場を劇的に変える「利他の力」

「利他」を経営の中心に据えると、社内の仕組みや改善活動の質が劇的に変わります。

例えば、私がかつて関わった製造現場での改善活動(シックスシグマやOEE改善)がそうです。 もし、私がCEOとして「利益を増やすために、もっと機械を回せ。設備総合効率(OEE)を上げろ」と数字だけを押し付けていたら、現場は絶対に動かなかったでしょう。

私たちが掲げた目的は違いました。 「年間11件も発生している労災を完全ゼロにしたい。仲間が怪我をせず、安心して誇りを持って働ける工場にしたい(人を大切にする経営)」という、純粋な利他の想いからスタートしたのです。

現場の作業者一人ひとりの悔しさや不安を1on1で徹底的に「傾聴」し、安全衛生環境を整え、誰もが迷わず安全に動ける動線や標準化(概念思考の導入)を進めました。 「自分たちの安全と幸せのために、この改善をやるんだ」と現場が納得した瞬間、組織は自走し始め、結果として労災は完全ゼロになり、OEEは2.5倍に跳ね上がりました。

DXや生産性改善は、利益のために人を絞り出す道具ではありません。「人が誇りを持って働くための手段」なのです。

■ 「徳」をセルフ・ルールにする自走型組織へ

今の日本社会は、物質的には豊かですが、若者の自己肯定感の低下や「生きづらさ」といった、心における「静かなる危機」に直面しています。 組織の中でも、嫌われないための演技や本音を押し殺す我慢が蔓延し、指示待ち人間が増えています。

こうした時代だからこそ、経営者が「利他」の旗印を掲げる意味があります。 「自社の利益だけでなく、仲間のために、社会のために何ができるか」を問いかけ、現代の武士道である「義・勇・仁・礼・誠」といった徳の精神を、社員一人ひとりが自分自身との約束(セルフ・ルール)として育んでいく。

感謝の気持ちを良好な関係を築く基盤とし、お互いの立場や経験、技術への敬意(互いに尊重)を忘れないコミュニティを創り出すこと。この温かい思想と、外資系的な徹底した合理化(冷たい仕組み)が融合したとき、会社はどんな不況にも負けない圧倒的な強さを手に入れます。

製造業の「想い」を現場の「行動」へつなぐ。 現在、全会員が共に成長するコミュニティ「製造業リーダーズネットワーク(一般社団法人)」の代表や、中小企業庁・生産性向上センターのサポーターとして活動しています。

利他の精神をベースにした「自走する組織創り」や、経営の軸を強める「次世代リーダー教育」について、まずはざっくばらんに本音の対話をしてみませんか? 限定での「100社対話インタビュー(無償)」も実施しておりますので、ご興味のある経営者様はぜひDMまたはコメントにてお気軽にご連絡ください。

(Virtue & Intellect 代表 / 製造業リーダーズネットワーク 代表 鈴木 美徳)