【製造業の経営】#08:エンゲージメントが向上すると業績が上がる? 

◼︎エンゲージメントにも種類がある 

 そもそも「エンゲージメント(engagement)」とは、「婚約、誓約、約束、契約」を意味する言葉です。 

 人事領域においては、「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」という意味で使われます。一般的には、従業員の会社に対する「愛着心」や「思い入れ」と解釈されています。 

このエンゲージメントには、大きく分けて2つの種類があります。 

  • ワークエンゲージメント 仕事にやりがい(誇り)を感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ている状態。つまり「個人と仕事との関係」に着目したものです。 
  • 従業員エンゲージメント 企業などの所属組織への貢献意欲。こちらは「個人と組織との関係」に着目したものです。組織の目指す方向性を理解し、それが自身の目標と重なることで「組織に貢献しよう」と思える状態を指します。 

 現在、グローバルで標準とされているのは「ワークエンゲージメント」です。一方、日本は長らく「従業員エンゲージメント」に注力してきた歴史があります。 

◼︎日本は最下位 

日本のワークエンゲージメントは、主要国中で最下位というデータがあります。 

 これは本当に低いという側面もありますが、日本の「奥ゆかしさ」や「謙虚さ」の文化が回答に影響しているとも言われています。しかし、世界と競争する上での改善が急務であることは間違いありません。 

 日本は戦後長らく、「終身雇用・年功序列・理念経営」に注力してきました。この日本式経営は1980年代〜1990年代に世界を席巻する実績を示しましたが、時代の変化や経営手法の研究が進む中で、いつしか世界の流れに付いていけなくなってしまったのが現状です。 

◼︎エンゲージメント向上は業績に効く 

各調査機関のレポートを見ると、エンゲージメントと業績には明らかな相関があります。 

  • 「従業員満足度(ES)が1ポイント上昇するごとに、当期の売上高営業利益率が0.35%上昇する」(リンクアンドモチベーション社など)
  •  「仕事のやりがいだけでなく、組織的なサポートも整った『持続可能なエンゲージメント』が高い企業は、低い企業に比べて1年後の営業利益率が約3倍高い」(ウィリス・タワーズワトソン社) 
  • 「従業員エンゲージメントが上位25%の組織は、下位25%の組織に比べて、収益性において23%高いスコアを記録」(米国ギャラップ社) 

このエンゲージメントの上昇が業績をもたらす理由は、主に3点あります。 

①離職率の改善による「コスト削減」 

 入社わずか3ヶ月で従業員が退職した場合の総財務損失額は、新卒で約200万円、中途で約250万円に達します。さらに、半年〜1年以内の中途半端な時期での退職は、教育にかかった人件費が無に帰すため、1人につき実質「313万円」もの莫大なキャッシュアウト(企業の富の喪失)が発生します。エンゲージメント向上は、この損失を直接防ぎます。 

②生産性の向上 

 エンゲージメントの高い従業員は、仕事に対して「活力」「熱意」「没頭」を持って主体的に取り組みます。その結果、企業の労働生産性が1〜2%向上すると言われています。 

③顧客対応品質の向上 

 自社製品やサービスに対する強い誇りと愛着が、顧客対応のクオリティを高め、顧客満足度(CS)やリピート率の上昇に直結します(ギャラップ社の調査では、エンゲージメントの高い組織は品質欠陥やエラーが32%少ないとされています)。 

 「休職率」と「退職率」のシグナル 

 具体的な対策の前に、エンゲージメントと離職の関係について重要な事実があります。 

 エンゲージメントスコアが著しく低い組織群(スコア40以下など)では、「休職率」が「退職率」を上回る傾向があります。しかし、スコアが一定の閾値(スコア45以上)を超えると、今度は「退職率」の方が高くなるという逆転現象が発生します。 

 つまり、マネジメント層は単に「離職者数」だけを監視するのではなく、「休職率と退職率の比率の推移」を組織の「心理的健全性」を測る先行指標として捉える必要があるのです。 

◼︎エンゲージメントはどうしたら改善できる? 

 ここで、私の経験談をお話しします。 スコア40以下の組織では、「縦方向のコミュニケーション」がほとんど機能していないケースが多いです。 

朝礼や週礼、評価フィードバックは実施していても、その実態は形骸化しており、部下が欲しい情報は伝わらず「上司が一方的に話す場」になっているのです。 

これを、「上司が2割、部下が8割話す(2:8の法則)」に変えただけで、組織のエンゲージメントスコアが15%以上上昇したケースがありました。 

人事面からのアプローチとしては、以下のような対応策が有効とされています。 

  • 1on1(定期面談)の標準化とマネジャーの育成
  • 部門横断での多角的なコミュニケーション機会の提供
  • 「小さな称賛と感謝」の仕組み化(サンクスカードやピアボーナス) 
  • キャリアロードマップの可視化と共有 
  • 自発的な学習機会の提供と「社内勉強会」の支援 
  • オンボーディングと「社内メンター制度」の構築 
  • 人事評価制度の最適化と透明性の確保 
  •  柔軟な働き方の選択権の付与(製造業では現場と事務方のバランスに配慮が必要) 

詳細な対策と、さらに一歩踏み込んだエンゲージメントの考察については、次回の「#09」で引き続き考えていきたいと思います。