【製造業の経営】#02:安全
経営において「安全第一」という言葉は、朝礼や看板で見ない日はありません。しかし、多くの経営者にとって、それは「守るべきルール」であっても、「攻めの経営戦略」として認識されているでしょうか。
今回は、経営者が最優先すべき「安全」の本質について考えます。
安全と利益の意外な相関関係
「安全はコストであり、経済的な合理性の外側にある」と考えている方は少なくありません。しかし、安全性への投資は、実は企業の収益性と強い相関があります。
安全性の向上に取り組む姿勢は、従業員にとって「会社が自分たちを大切にしている」という最も直接的なメッセージとなります。その結果は「従業員エンゲージメント」の向上として現れます。 ある統計によれば、エンゲージメントが1%向上すると、営業利益率が0.35%アップするというデータも公表されています。つまり、安全な職場づくりは、単なる事故防止ではなく、高収益体質を作るための「投資」なのです。
忘れられない「恐怖」の光景
かつて私が勤務していた、労災の絶えない工場での出来事です。 ある日、大きな怪我をした作業者が、激痛に耐えながらも病院へ行くことを頑なに拒みました。理由を尋ねると、彼は震えながらこう答えました。 「病院に行けば、社長に怒鳴られる。それが怖いんです」
経営者に、事故を起こした人間を責める権利はありません。むしろ、事故を起こさせてしまった環境に責任を感じるべきです。労災が発生した際、まず当事者に真摯に謝罪するのが経営者としての筋ではないでしょうか。この「心の安全」が欠如した職場では、生産性向上など望むべくもありません。
統計から見る日本の現状
近年の労災推移を見ると、発生件数自体は横ばいですが、国内の事業所数が減少しているため、実質的な「発生率」は上昇傾向にあります。 特に「挟まれ・巻き込まれ」「転落」「転倒」の3大要因は、長年変わることなく上位を占めています。これらは注意喚起だけでは防げない、構造的な課題を含んでいます。


仕組みで守る:ISO45001の活用
では、具体的にどう安全を維持すべきか。その強力な武器となるのが、労働安全衛生マネジメントシステムISO45001(旧OHSAS)です。ここには、経営者が果たすべきリーダーシップが明記されています。
- PDCAサイクル: 計画から改善までの枠組みを回す。
- リスクアセスメント: 危険源を事前に特定し、排除する。
- トップマネジメントの関与: 現場任せにせず、経営層が責任を持つ。
財務諸表をチェックするのと同じ熱量で、経営者が「安全」に直接関与すること。それが組織を真に強くします。
実践するリーダーの姿
私の知人に、福井県で長田工業所を経営している小林社長がいます。 彼は、引き継いだ鉄工所の舵を切り、「今後数年かけて全ての業務を安全柵の設置や安全指導の領域へシフトさせる」と力強く宣言されています。まさに「安全を経営の核」に据えた決断です。
もし、安全管理の具体的な進め方や志に触れたい方は、ぜひ小林社長と話してみてください。
経営は数字だけではありません。従業員の命と心を守る「安全」こそが、持続可能な成長の土台となるのです。



